読書のジャンルで、海外旅のルポルタージュが好きだ。自分も海外旅行をした気分になれるし、今まで行ったことのない国や珍しい文化を知ることができる。私は高野秀行さんという作家さんの著書がお気に入りで、読んだことのないものを見つけたら買うようにしている。とてもユニークな作家さんで一読の価値ありである。今回はそんな高野さんの本についてオススメしたい。
高野秀行とはどんな作家?
高野秀行さんは、海外の様々な場所に長期滞在し、そこでの生活や、現地人とのやり取りについて書いている作家さんだ。
この人のモットーは、「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それをおもしろおかしく書く」、としており、自ら辺境ライターと名乗って、日本人が絶対行かないような場所を訪れ、作品を書き続けている。最近ではテレビ番組、「クレイジージャーニー」などにも出演されたようで、その独自な切り口が注目されている。
高野秀行さんの本の魅力
高野さんの作品の魅力は、その作風のユニークさ、深い考察力、また自身の体験を笑いに落としこめる、という点にある。
とりあえず海外に行ってきて、変わった経験をしたよというだけの話では決して終わらない。
事前に疑問点を持ち、仮説をたててしっかりと準備をする。現地でも地元の人達としっかりコミュニケーションをとりながら調査、体験をし、その上で鋭い考察をして本にまとめてる人なのだ。
しかも作品にする中できちんと笑いを入れてくれる。その体験談は非常に貴重で我々の好奇心を刺激しつつも、どこか友達の旅行の土産話を聞いているような感覚で読めるのである。ものすごい人のはずなのに非常に親しみやすいのだ。
辺境ライターとしての唯一無二の存在
高野さんの作品のユニークな点として、そのモットーにもあるように、普通に暮らしてたら決して日本人が行かない(というか行けない)場所に行くことである。この人が選ぶところは、どこも日本人が来たのは高野さんが初めてらしい、みたいな場所ばかりである(文中で何度この記載を見たことか)。
しかも誰も思いつかないようなテーマを選び、そんなこと書いちゃって大丈夫なのかレベルのことをしてあっさりと書くので恐ろしい。
元々は早稲田大学の探検部としてUMA、未確認生物を探すために海外に出かけていた方だったのだが、気付いたらゲリラ紛争の激しいエリアなどでも取材をされて、賞も受賞されている。
高い語学力を活かした鋭い考察
高野さんの作品が面白い点として、訪れた国の文化への理解や、現地情勢に対する考察が、他の旅のルポライターと比べても群を抜いていることだ。
現地の言葉を学び、現地の人と同じように生活にして取材・調査をするスタイルを取られているからか、その国の情勢や文化をしっかりと把握されている。しかも解説が抜群にわかりやすいのである。異国の言葉を聞いて、ややこしい民族間の関係性や現地の文化をどうしてあそこまで噛み砕けるのか。まさに天才としか言いようがない。
また毎度驚かされるのは高い語学力だ。英語や中国語などだけでなく、訪れる先のあらゆる少数部族の言語まで習得している。一体この人は何カ国語話せるのだろうか。また作品中にもちょこちょこ出てくるのだが、その勉強法も非常にたくましい。
ツテを頼り、日本でどこからともなく知り合いの現地人を見つけてきては、会話をやり取りしながら覚えていくのだ。そうやって教科書もないまま勉強を始めて、1ヶ月2ヶ月でコミュニケーションを取れるところまで持っていってしまう。語学学習はかくあるべきのお手本のような方である。我々が文法書を手に、何年もかけて英語ですら苦労している間に、あっという間に先に行ってしまうのだ。
笑って読むことができる気軽な文体
そして高野さんの作品の最大の魅力は、読んでて楽しい、ということだ。思わず笑ってしまいながら読むことができる。これこそが私が高野さんの著書を買いそろえてしまう一番の理由である。
辺境地帯への旅や、少数民族が住むような場所での生活は確実に大変なはずなのに、それをみじんも感じさせない。現地でのトラブルもとにかくコミカルな文体で描いてくれるので、何だか珍道中感が出てしまい、笑わせてくれる。
海外旅の体験記を書く作家さんは多くいるが、そのシリアスな文体に読んでいて疲れるのも事実である。旅先で辛い状況に追い込まれたり、治安の悪さや危険な雰囲気をそのまま文章にするせいなのか、悲壮感が漂ってくるようなものも多い。
旅先でいろいろ思うところがあるのだろうが、なんというか自分にはストイックすぎるというか意識が高いのである。
もちろん、これは私の個人的な好みなので、作家さんのせいでは全くない。むしろそういう旅人の心情を読みたいという人もたくさんいるはずだ。ただ自分はもう少し肩の力を抜いて読みたいというか、旅の楽しさ、自由さを感じられる内容が好きだ。高野さんの作品はそんな私のニーズにぴったりと答えてくれる作品なのだ。
私のようなぬくぬくと生きている人間でも、この国っておもしろいなあ!行ってみたいなあ!と思えるように書いてくれるのである。ゲリラがはびこるような地帯であっても、この人の手にかかれば何だかのほほんとした場所に見えてくるので不思議である。
高野秀行さんのおすすめ作品5選
そんな高野さんの作品の魅力をふんだんに感じられる作品を5つまとめてみた。どれも普通に生きてたら、絶対経験できないような貴重な話ばかりである。知的好奇心を刺激したい方は一読の価値ありだ。
謎の独立国家ソマリランド
個人的には高野さんの作品の最高傑作だと思っている。第35回講談社ノンフィクション賞を受賞した作品である。内乱が続き、国内も崩壊しているリアル北斗の拳というイメージのソマリア。その中に実はソマリランドという独立国家があり、10年以上平和を維持している。そんな噂を聞きつけた高野さんが、実際にソマリランドに行って調査をする話である。
危険な紛争地帯のリアルな状況を知れるだけでなく、ソマリランドの超複雑な国家背景や民族事情をとってもわかりやすく解説してくれる。その上笑いもしっかりと提供してくれるというすごい作品だ。
変わった場所に行くのが好きな人、高野さんの調査力、考察力を体験したいという方はぜひ手に取ってみてほしい。
ワセダ三畳青春記
高野さんが学生時代から20代まるまる住んでいた、野々村荘での生活をまとめたエッセイである。ほぼノンフィクションということなのだが、登場人物が奇人変人ばかり、日常生活も奇妙なエピソードばかりで、さすが高野さん。という感じだ。こんな大学生活を送れたら楽しかっただろうな、と思わせるまさに青春記である。
高野さんの考察力や笑いのセンスがふんだんに詰まった作品で、存分に笑わせてくれる。高野さんの魅力の一つとして、変だな、アホだなーと思わせつつも、さすがは早稲田大学出身。どこかインテリジェンスを感じてしまうという点があり、それが存分に発揮されたエッセイなのだ。個人的には、チョウセンアサガオの種で実験をする話が、最高におバカで面白いのでぜひ読んでみてほしい。
この作品も、第1回酒飲み書店員大賞なる賞を受賞されている。まさにお酒のアテによく合うような本である。
この作品に関しては別の記事でもまとめているので、興味のある方はこちらもぜひ。
今回は高野秀行さんの「ワセダ3畳青春記」という本を紹介したい。辺境ライターとして海外の有名な高野さんだが、20代のころの日々の生活を書いたエッセイである。高野さんがどんな人物なのかを知るにはこれ以上ないくらいの名作である。 「ワセダ3[…]
アヘン王国潜入記
これは高野さんが、ミャンマーのゲリラ紛争地帯に潜り込み、なんと現地でアヘンを育てながら暮らすというとんでもない話である。滞在期間は1年以上と、ここまでやる作家が他にいるのかと衝撃である。
登場人物にゲリラや、麻薬王などヤバい人たちもたくさん出てくるし、こんなこと書いちゃって大丈夫なのかな?と思わせる内容ばっかなのだが、なぜか危険さが微塵も感じられないのは高野さんの軽妙な文体のおかげである。なぜか田舎でのスローライフを送っているような感じになるから不思議だ。
西南シルクロードは密林に消える
高野さんが密入国をし、ゲリラに道案内をしてもらいながらミャンマーのジャングルを実際に歩く。というお話。文字に起こすととんでもないことをしでかしている上、道中も過酷で危険極まりない旅のはずなのだが、なぜか読んでいて笑いが絶えない名作だ。
こんな旅、普通に生きてたら絶対にできない。これを読書で、しかも楽しみながら擬似体験できるのは貴重である。
辺境メシ ヤバそうだから食べてみた
高野さんがこれまで訪れた各国で食べた、現地独特の食事をまとめた作品である。高野さんは現地人が食べているものは基本的に食べられるという判断をしており、ありとあらゆるものを食べてきた高野さんだからこそ書ける作品である。
日本人の感覚からしたら、それ食べて大丈夫?というものばかりなのだが、自分では絶対に食べる勇気がないものもどんどん試すのが非常に面白い。
どの作品でも共通しているのだが、高野さんは現地の文化に対して偏見などが全くなく、非常にフラットな目線で話をしてくれる。そういったところも高野さんの魅力である。
まとめ
今回は高野秀行さんの魅力、おすすめ作品5選についてまとめてみた。楽しい気持ちで、好奇心を刺激したいという方にはもってこいの作家さんである。今回は5冊しか紹介しなかったが、高野さんの本はどれも傑作揃いで面白い。
高野さんの作品に関しては別の記事でもまとめているので、興味のある方はぜひ下記も読んでいただけると嬉しい。
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ミャンマー情勢が不穏である。政治的なことを書くつもりはないのだが、市民の生活の自由が制限されていたり、死者が出るなど治安が不安定なようで心配だ。ミャンマーのニュースを見ていると頭に浮かぶのが、作家の高野秀行さんである。高野さんはミャンマーに[…]