「アジア新聞屋台村」グローバル社会で働くおもしろさ

今回は、高野秀行さんの著書「アジア新聞屋台村」を紹介したい。高野さんは世界を飛び回っては現地の様子をまとめる作家さんなのだが、その高野さんが会社勤めをした話である。ただサラリーマンになると言っても流石の高野さんである。お勤めする会社も普通の会社ではないのである。

どんな話?

この「アジア新聞屋台村」は高野さんが国際派の新聞社で働く話である。在日外国人向けに向けた新聞を発行している会社であり、そこで働くアジアの人たちとの交流を通して、外国人と日本人の考え方の違いの面白さをテーマにした内容となっている。

フリーライターとして活動していた高野さんが、不意に依頼を受け、エイジアンという新聞社で働くことになることから話は始まる。この会社は日本で暮らす、タイ、台湾、ミャンマー、インドネシア、マレーシアの在日外国人のための新聞をそれぞれ出しているのだが、タイ人向けの誌面に記事を書いたり、各紙で使われる日本語の公正を担当することになるのだ。

このエイジアンという会社がなかなか非常にな会社なのである。台湾人社長の劉さんをはじめ、色々な国の人が働いており、日本とはあまりに違う職場や社員のキャラクターに対して高野さんが感じるギャップが面白く書かれている。アジアの国々の人たちの気質の違いを、笑いを交えながら鋭い分析をしてくれるのが魅力である。

ちなみに本作のタイトル「アジア新聞屋台村」とは、色々な国の人々が集まって、おもいおもいに自由に新聞を作り売る様が、お祭りの屋台の様であることから、つけられている。

以前紹介した、高野さんの「ワセダ3畳青春記」と時期的にリンクすることもあり、姉妹本的な扱いをされているので、こちらの作品も合わせて読むことをおすすめする。

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高野秀行さんのワセダ3畳青春記をまとめた

本の魅力

いつもの様に誰もやらないことをおもしろおかしく書いてくれる高野さんだが、今回も本の魅力をお伝えしたい。

日本と違う自由な働き方を感じられる

この会社、高野さんが5年も居座るだけあり、非常に自由な会社なのである。ありとあらゆることがゆるいのだ。出社時間は個人バラバラ、編集会議などもなければ、新聞の公正なども適当極まりない。ライターが各々書いて、そのまま編集、出版までやっているので、記事によって文字の大きさも違う。まるで学級新聞のようなのだ。当然著作権などもガバガバで、すでに出版されているガイドブックをそのままコピーして掲載したりするから恐ろしい。(コピーした時にガイドブックのページの数字まで載ってしまい、発覚した。)

日本の企業だと考えられないことも多いのだが、それゆえの魅力も多く書かれている。働きやすいし、発行までのスピーディさや、自由な発想で新聞を作ることができる。新しいアイディアは試してみて、人気なら続ける、ダメならやめる、(これが屋台と呼ばれる所以だ。)というスタイルで個性を確立しているのだ。

働くライターもエイジアンという会社に勤めながら、会社に依存しているものが誰もいない。みんなライターとは別に、自分で別に商売をしているのだ。社長の劉さんも「会社のために働く人は嫌い、自分のために働く人が好き」なんてことを言っている。日本の会社の風土でこれを言うと、某ブラック企業の居酒屋さんを彷彿させるが、実際みんなが好き勝手に働いている会社なので、嫌味が全くない。むしろ新聞業のほうが副業な人もいたりするのだ。

しかもこれ2000年ごろの話である。日本でも近年ようやく認められ始めてきた、フレックスや副業の話が、すでに当たり前のように行われているのだ。高野さんの本を読んでいるとしばしば時代を先取りしているなと感じるが、この本でもしかりだ。この本を読んでいると我々がいかにルールや規則という価値観に縛られているかわかる。

魅力的な登場人物

高野さんの本の魅力の一つとして、登場人物がみな個性的でちょっと変わっていることであるが、本作でも健在である。外国人が多いので、日本人と比べるとキャラが立つのは当然なのだが、それを差し引いてもユニークな人が多いんじゃないかと思う。台湾人社長の劉さんに、インドネシア人のバンバンさん、韓国人の朴さんやタイ人のレックちゃんやプンちゃん、みんな個性的なのだ。高野さんはこういう個性的な人に会う天才だと思う。

デリケートな話題もうまく消化してくれる

また高野さんはこういった登場人物とコミュニケーションをとりながら、日本と海外の政治的な話や、宗教的なことなど、聞いてみたいが、興味本位で聞きづらいことなどもしっかりと掘り下げてくれるのである。

しかもその目線が非常にフラットで良い。必要以上にタブーとして捉えたり、真面目な話としてまとめるのではなく、あくまで世間話レベルまで噛み砕いてくれるのだ。ムスリムの礼拝など、日韓の関係などデリケートな話題ではあるが、個人個人の話を聞いてみると、別に我々が感じることと大差ないのである。

この手の話は、思想に偏りのある人の意見は耳に入りやすい。メディアも過激な意見を取り上げがちだ。そのため逆に、一般人レベルの人たちと考え方がかけ離れていることも多く、庶民レベルの人たちがどう思っているかということを聴けるのは貴重である。こういった切り取り方も世界を旅してきた高野さんだからこそ書けるのだと思う。

まとめ

今回は高野さんの「アジア新聞屋台村」という作品をまとめた。グローバルな環境で働いてみたい人や、アジア諸国に興味ある人などはぜひ手に取ってみてほしい内容である。

アジア新聞屋台村が面白い
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